新作小噺集



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ママと買い物・壱

子供「ねぇ、ママ、このハムおいしそうだよ、晩の御飯はハムにしようよ。」
ママ「だめよ、今晩はお魚に決まっているの。」
子供「そんな事言わないで、ねぇ、ママ、ハムにしようよ、ねぇ、買おうよ、ねぇ、 ママ、ハム、僕ハム食べたいの、ねえ、買ってよママ、ハム、ハム食べたいの、 ママ、ハム、ハム。」
ママ「だめっ、この子はすぐに歯向かって(ハム買って)。」


ママと買い物・弐

子供「ねぇ、ママ、この割きイカおいしそうだよ、この割きイカ買ってよ。」
ママ「だめよ、そんなもんばかりたべてると、夕御飯が食べられなくなっちゃうでしょ。」
子供「そんな事言わないで、ねぇ、ママ、割きイカ、買おうよ、ねぇ、ママ、割きイカ、 僕割きイカ食べたいの、ねえ、買ってよママ、割きイカ、割きイカ食べたいの、ママ、 割きイカ、ママァ、先行かないで(割きイカ、ないで)。」


ラーメン屋

あるところに、ラーメン屋さんが、三軒並んでおりまして、一番右の主人が『日本一お いしいラーメン』、看板を出しました、すると、一番左の主人が『世界一おいしいラーメ ン』、看板を出しまして、さあ、真ん中の主人が困っちゃって、出した看板が『入り口は こちら』


悪の十字架

悪の十字架と言う話、ある早朝、檜皮色の着物をまとった一人の老婆が、まだ降りてい るデパートのシャッターに向かって、あたかも、そのデパートに恨みでもあるかのごとく、 叫んだ。
老婆「悪の十字架(開くの十時か)。」


恐怖のみそ汁

恐怖のみそ汁と言う話、おとといは大根のみそ汁だった、昨日は豆腐のみそ汁だった、
だから、だから、恐怖のみそ汁(今日、麩のみそ汁)。」


口紅

今日、私がここまでまいりますのに、電車でまいりましたんですけれども、ま、電車、 そんなにこんではおりませんで、ま、座れる程すいてもいなかったんで、ま、私は、こう 吊り革に掴まって、立っていたんですけれども、そうすると、私の隣で、中年のおじさん が、こう競馬新聞かなんか、読みながら立っておりまして、そうすると、そのおじさんの 前の座席に、若い女の方が座っておりまして、ええ、以上で場面設定は、終わりますが、 ご理解いただけたでございましょうか、これから、この三人を中心に、物語は進行をして いく訳でございますが、そうすると、その座席に座っていた女の方が、何を思ったか、突 然、化粧を始めたんですなぁ、私は、女の方が化粧をするのを、あれだけ近くで見たのは 、初めてでございますが、面白いもんですなぁ、こうコンパクト、と言うのですか、取り 出しまして、顔へこう、パタパタ、パタパタ、粉を塗るんですなぁ、で、塗り上がると、 こう、鏡へ顔を近付けてまいりますな、近めが水族館へ入ったような格好になりまして、 顔がすっかり塗り上がると、口紅を出しまして、口紅を塗り始めまして、と、すると丁度 その時、ちゅっと、電車ががたんと揺れたんですね、私は、吊り革に掴まっておりました ので、あ、ぐらいですみまして、ま、女の方も、口紅を口から放しまして、あ、ぐらいで すんだんですが、私の隣で、両手放して競馬新聞読んでいたおっさん、ああってんで、あ わてて、手を前に出した、出した先に、女の人の方があった、あれは、ものの弾みですね ぇ、女の方が、あっと言って、口紅を口から放すタイミングと、おっさんがを肩ぽーんと 叩くタイミングが、上手くあったと見えまして、口紅が、女の人の鼻の中へ、スポッ、お まけに、鼻の中で口紅が折れた、最初、女の人は、指をつかってほじくり出そうとしまし たが、指を入れれば入れる程、口紅は奥の方へ、奥の方へ、頭からヘアーピンを出しまし て、それを使って、こう鏡を見ながらほじくり出そうとしましたが、なかなかうまい事い かない、何回も何回もやっているうちに、もう、このへんが真っ赤、それ見て、ついた当 のおじさん、『ああ、ねぇちゃん、勘弁な、俺が肩たたくから、こんな事になって、ねぇ ちゃん、勘弁な。』と、謝ればいいものを、『なはははははは。』と、見て笑ってますの で、ま、私も若い女性の味方しまして、『おいこら、おっさん、おっさんが肩たたくから、 この人、こんな事になったんじゃないか、謝りなよ、謝りなよ。』と、言わずに、一緒に 見て笑ってました。


手術

患者「先生、私、手術するの、初めてなんですけど、大丈夫でしょうか。」
医者「心配する事はありません、私だって、手術するの初めてなんですから。」


酒百態

お酒と言うものがございますが、私も、お酒が好きでございまして、よく呑みに行くん ですけれども、この間、私が、ちょっと行きつけの店で飲んでいたんですけれども、そう すると、私の座っているカウンターの、向こうの方で、中年のおじさんが、もう、かなり 出来上がっておりまして、『酔った。』ってな感じで、座っておりまして、そうすると、 そこへ、和服を着た、女の方が、あノー、犬ですね、あれなんてんですか、マルチーズっ てんですか、全身糸屑みたいな犬いますね、あれ、ほどくと犬がなくなっちゃうんじゃあ ないかと思いますけれども、そういう犬を、連れて入って来たんです、そうすると、その 酔っ払いが。
酔っ払い壱「おいこら、こんな時間に、こんな場所へ、ぶた連れて来ちゃあいけないって、 ぶた連れて来ちゃあいけないって、あ、だから、ぶた連れて来ちゃあいけない っての。」
女壱「いやあね、この人は、ぶたと犬との区別もつかない程、酔っ払ってるの、これ、ぶ たじゃなくて、犬よ。」
って言うと、その酔っ払いが。
酔っ払い壱「馬鹿ぁ、俺は、その犬に言ってるんだ。」
ってましたけど、よく、電車の終電なんかに乗ると、回りに乗っているのは、皆、中年 の酔っ払いのおじさんばかり、でございまして、これも、この間の事なんですけれども、 私が、ちょっと、用事がありまして、遅くなりまして、終電に近い電車に乗っております と、私の座っている座席の、向こうの方に、やはり、中年のおじさんが、『酔った。』っ てな感じで座っておりまして、すると、そこへ、女の方が入ってまいりまして、まあ、水 商売の方でございましょうか、ここんとこへ、こう、紅などさしておりましたが、それで 、その女の方が、よせばいいのに、その酔っ払いのおじさんの、丁度、真正面に、座った んですね、そうすると、そのおじさん、退屈していたところへ、いい相手が来た、なんて んで、その女の人を、からかうんですね。
酔っ払い弐「いよ、今日は良い日だね、俺はずいぶん長いこと人間やってるけどもね、お 前みたいなブス見たの初めてだぞ、おいこら、ブス、ブス、ブース。」
女弐「いゃあねぇ、この人は、なにさ、酔っ払い。」
酔っ払い弐「ブース。」
女弐「酔っ払い。」
酔っ払い弐「ブース。」
女弐「酔っ払い。」
酔っ払い弐「ブース。」
女弐「酔っ払い。」
ってぇと、その酔っ払いが。
酔っ払い弐「いいか、俺の酔っ払いは、明日になりゃ、直るんだぞ。」

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