江戸小噺集



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仁王様

昔、浅草の観音様に入った泥棒がございまして、賽銭箱を風呂敷でくるみますと、これ をしょいまして、野郎、裏から逃げればいいものを、表からどうどうと逃げようとしまし て、ところが、表には門番の仁王様がいらっしゃいますから、逃がす訳はございません、 この野郎ふてぇ野郎だ、なんてんで、泥棒の襟首をつかまえまして、目よりも高くつり上 げると、そのまま地面へ叩きつけまして、泥棒が四つん這いになると、上から、あの何文 あるか分からないような大きな足で、ぐぐぐぐぐっと踏み付けます、ってぇと、かの泥棒、 下腹へ力を入れて力みましたから、たまりません、さっそく大きなおならをぶーっ。 仁王様「むむむむむ、くせぇーものー。」
泥棒「はーあ、仁王かぁ(臭うかぁ)。」


赤米

ある田舎道で、百姓とめくらがいっしょに歩いておりますと、道端に捨て子がありまし て。
百姓「おおい、こんな所に、子めが落ちてるぞ。」
めくら「米が落ちてる、ああ、そりゃ早く拾え、早く拾え。」
百姓「いいや、そうではねぇ、赤子めだ、赤子め。」
めくら「赤米でもいいから、早く拾え。」
百姓「いいや、そうではねぇ、人(しと)だ人だ。」
めくら「ああ、四斗なら二斗づつ、分けんべぇ。」


草刈った

近ごろは生意気な子供が増えておりまして、うかうかしてると、大人でもやり込められてしまいまして。
子供「おじさん、落語やってるんだって。」
落語家「へぇ、さようでございますが。」
子供「じゃ、小噺、知ってるかい。」
落語家「そりゃ、小話のひとつやふたつ、知ってますけど。」
子供「じゃ、こんなの知ってるかい。」
落語家「へぇ、どんなのですか。」
子供「昔々、々、ところにおじいさんとおばあさんがあったんだ。」
落語家「あのね、坊っちゃん、それは小噺じゃなくて、昔話、おとぎ話ってんじゃありませんか。」
子供「いいからだまって聞いてなよ、それで、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行ったんだ、すると川上から、大きな桃がどんぶらこどんぶらこ、と流れてきました、おばあさんは、その桃を持ち上げようしましたが、大きな桃なので、なかなか持ち上がりません、おばあさんは、桃を持ち上げようと、下腹に力を入れて、うーんと力む、途端に、おじいさんのいる山にまで響くような大きなおならがぶー、
すると山にいたおじいさんは、芝を刈らずに草刈った(臭かった)。」


足の早い奴

男壱「おーい、てぇへんだぁてぇへんだぁ。」
男弐「おおい、どうしたんでぇ。」
男壱「あ、兄ぃね、俺、今、泥棒を追っかけてるんだ。」
男弐「泥棒、へへ、お前に追っかけられた泥棒も災難だな、なにしろ、お前は町内で一番足が早いんだ、泥棒なんざすぐに捕まっちまうだろう、で、泥棒はどっちへ逃げた。」
男壱「は、は、今、後から来る。」


長い名前

ある所に、双子の兄弟が生まれました、弟の方は非常に可愛いのに比べまして、兄の方 はどうもあんまり可愛くない、そこで母親は仏教の悟りの経文『阿耨多羅三藐三菩提(あ のくたらさんびゃくそんぼだい)』を取りまして、兄の方へは「あくたら」と言う短い名 前、弟の方には「さんびゃくさんぼだい」と言う長い名前を付けました。すると、ある日、 この兄の方が遊んでいるうちに、間違って、川へはまってしまいました、母親は必死で 『あくたらが流される、あくたらが流される』と大声で叫んだので、すぐに近所の人が気 付いて、すくい上げてくれまして、事なきを得ましたが、またある日、こんどは弟の方が、 川へはまってしまいました、母親はまた必死で『さんびゃくさんぼだいが流される、さん びゃくさんぼだいが流される。』と叫びましたが、近所の人に伝わるのが遅く、その子供 は流されてしまいました、母親はがっかりして『ああ、せめて三百すてれば、助かった。』




八五郎「隠居さん、こんにちは。」
隠居「おや、八っつぁんかい、まあ、おあがりよ。」
八五郎「しかしなんですね、隠居さんのうちには、いつ来ても、絵がいっぱい飾ってありますねぇ。」
隠居「まあ、あたしが好きで集めている。」
八五郎「この掛け軸は、鶴の絵ですね。」
隠居「おお、よく鶴の絵だと分かったな、ところでな、八っつぁん、鶴の事をなぜ鶴と言うか、知ってるかい。」
八五郎「へぇ、なんでまた鶴ってんですか。」
隠居「これはな、昔、首長鳥と言ったんだがな、はるか昔、一人の白髪の翁が、海辺に立って、こう沖の方を見ているするとな、はるかもろこしの方から、一羽の雄の首長鳥がつーっと飛んで来て、浜辺の松へぷいっと止まった、後から、雌の首長鳥がるーっと飛んで来て、浜辺の松へぷいっと止まったから、鶴になったんだよ。」
八五郎「ああ、そうなんですか、さっそく、どっかへ行って自慢してこよう、ありがとございました。」
隠居「おいおい、こんな事を、脇で言うんじゃないよ。」
八五郎「さぁ、どこへ行って自慢してやろうかな、源ちゃんのとこ、行ってみよう、源ちゃん、いるかい。」
源「おう、どうしたんだい。」
八五郎「ねぇ、源ちゃん、鶴の事を、どうして鶴ってぇか、知ってる。」
源「いいや、知らねぇな。」
八五郎「知らない、ふふふ、それなら教えてあげるけれどもね、鶴は昔、首長鳥と言ったんだよ、するとね、はるか昔、一人の白髪の翁が、海辺に立って、こう沖の方を見ているするとな、はるかもろこしの方から、一羽の雄の首長鳥がつるーっと飛んで来て、浜辺の松へぷいっと止まった、後から、雌の首長鳥が…、あのね、いいかい、はるか昔、一人の白髪の翁が、海辺に立って、こう沖の方を見ているするとな、はるかもろこしの方から、一羽の雄の首長鳥がつるーっと飛んで来て、浜辺の松へぷいっと止まった、後から、雌の首長鳥が…、さいなら、おかしいな、隠居がやると、ちゃんと鶴になったんだがなぁ、隠居さん、います。」
隠居「おや、八っつぁん、どうかしたかい。」
八五郎「すいません、隠居さん、さっきの鶴の話、もう一回聞かせてください。」
隠居「どっかでやってきたのかい、あんまり、こんな話をするもんじゃあないよ、いいかい、これはな、昔、首長鳥と言ったんだがな、はるか昔、一人の白髪の翁が、海辺に立って、こう沖の方を見ているするとな、はるかもろこしの方から、一羽の雄の首長鳥がつーっと飛んで来て、浜辺の松へぷいっと止まった、後から、雌の首長鳥がるーっと飛んで来て、浜辺の松へぷいっと止まったから、鶴になったんだよ。」
八五郎「あ、つと、ると、離すんだ、つーるーっと飛んできちゃいけないんだね、わかりました、へへへ、源ちゃん。」
源「わぁ、なんだよ。」
八五郎「さっきの鶴の話だけどね。」
源「まだそんな事言ってんのかよ。」
八五郎「いいかい、これはね、昔、首長鳥と言ったんだがよ、はるか昔、一人の白髪の翁が、海辺に立って、こう沖の方を見ているするとな、はるかもろこしの方から、一羽の雄の首長鳥がつーっと飛んで来て、へへへ、ここ、ここ、いいかい、一羽の雄の首長鳥がつーっと飛んで来て、へへへ、一羽の雄の首長鳥がつーっと飛んで来て、浜辺の松の枝へ、るっと止まったんだよ、後から雌の首長鳥が…、いいかい、一人の白髪の翁が、海辺に立って、こう沖の方を見ているするとな、はるかもろこしの方から、一羽の雄の首長鳥がつーっと飛んで来て、浜辺の松の枝へ、るっと止まったんだよ、後から雌の首長鳥が…、くっ、いいかい、はるかもろこしの方から、一羽の雄の首長鳥がつーっと飛んで来て、浜辺の松の枝へ、るっと止まったんだよ、後から雌の首長鳥が……。」
源「雌の首長鳥がどうした。」
八五郎「なんにも言わずに飛んで来た。」

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